VBLの意義
平成18年4月にラボ長に就任してから,前ラボ長の佐々木孝友先生(工学研究科教授)の路線を継承することだけで精一杯で,まだ何も手付かず,という感があります。佐々木先生は平成14年から4年間ラボ長を務められ,非常に大きな改革を実施されました。
すなわち,VBLを従来の研究中心型組織から,学内でのベンチャービジネスインキュベーション組織へと変革されたことです。VBL部門委員会(部門としての教授会にあたる)下に,研究プロジェクト委員会(以下,RPC)および教育社会貢献委員会(以下,ESC)を設置され,前者においては,それまでややもすれば研究室単位の単独研究であったものを,関連するテーマごとに複数の研究室が交流する融合型研究へと切り替えられ,また後者においては,アントレプレナーシップ教育はもとより,プレベンチャー育成とも呼びうる研究開発助成金獲得支援を積極化されました。
小生は,佐々木先生の下,RPC委員長の横山正明先生(前・工学研究科教授)ともどもESC委員長を拝命しておりました。それゆえ,RPCの具体的な研究内容については,明るくありませんが,佐々木先生および横山先生から教えていただいた内容としては,従来の光機能材料創生・開発,光機能材料創生・機能評価,光機能評価システム,集積光機能デバイス開発,光情報・光制御システム開発,という5つの班構成を改編し,情報システム,環境・エネルギー,バイオメディカル,という3つのプロジェクトチームを置くことになりました。
設立当初のVBLのミッションは,「光機能材料の創製とフォトニクス情報システム構築への展開」を研究していくことであったことから,光研究を中核としつつ,融合型研究の推進と応用領域の拡大を目指し,開かれた体制下でのプロジェクト制への以降を推進しました。その結果,学内兼任教員は従来の23名から66名へと増員すると共に,それまでの理学,基礎工学,工学といった3研究科からの兼任教員に留まらず,情報科学,医学,歯学,経済学等の研究科からも参加していただくことになりました。さらにアントレプレナー意識を活性化させるために,各プロジェクトチームにおいては,固定的な研究費配分は撤廃し,アイデア溢れる優れた研究については,予算措置も手厚くする,という競争的環境も整備いたしました。
他方小生が管掌するESCは,学内におけるヒューマンリソースの少なさから,外部の客員研究員(総数33名)を中心とする形で活動を開始しました。ベンチャーキャピタル,近畿の商工会議所,その他各種ベンチャー支援機関に所属される方々に,当初はビジネスプラン検討会に参加して頂き,事業化していくにはどうすればよいか,というとことを閉鎖会方式で検討しました。しかしながら,技術の事業化という観点から見た場合,いささか未成熟という研究シーズが多かったので,2年目からは,政府各種公共団体が助成する研究開発助成金を獲得支援する方向に舵をきりました。
助成金の獲得支援の中心になったのが,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のNEDOフェローたちです。彼(女)らは,原則修士号あるいは博士号取得者たちで,既存の教育研究組織あるいは企業への就職を目指すのではなく,産学官連携,VB育成あるいは新産業発展へ貢献する志をもった人たちです。具体的には,各地のTLOあるいは大学等にNEDOから期間雇用され派遣される人たちです。
VBLではかねてより,NEDOとの関係も深く,またVB育成についても評価されていたため,フェロー人選についても実質的には委譲されており,このことからESCとしては,他大学と比較して「大量に」フェローたちを抱えることにしました。18年度7名という状況です。彼らをESC下の「スタートアップ支援室(SST)」に束ね,VBLはもちろんのこと他の研究科の技術シーズをもとに,研究開発助成金獲得の支援を行う,というように方向転換しました。
SSTのミッションは,大学発VBの設立あるいは産学事業化連携の活性化です。とはいえ,ESCにおけるビジネスプラン検討会において経験したことは,技術シーズと事業化との隔たりの大きさです。このギャップを埋めるには,ビジネスライクな研究開発計画書を研究者とNEDOフェローが協力して完成させ,もってそのクオリティを高めていくことによって,やがてはVB創出あるいは産学連携に繋げていく,という発想です。実際,平成17年度では,文部科学省,JST,経済産業省,NEDO,大阪府等から総額約4億5千万円の研究助成金をSSTは獲得しました。今後この枠組みをさらに拡大していくことが,先端科学イノベーションセンターにおけるVBLの役割,だと考えております。
平成16年4月から国立大学法人格の付与に伴い,法人としての自律性が求められています。これまでの経緯から考えて小生は,大阪大学は,世界に冠たるリサーチユニバーシティを目指さなければならない,と思っています。そのためには,研究と応用,実用化の多様性がなくてはならない,と考えています。加えて財政基盤の安定化です。
日本では米国スタンフォード大学の財政基盤整備に関する取り組みがフォーカスされ,VBや産学連携に関する記事が多く書かれていますが,当大学は,世界中から顕著な業績を上げた研究者を多数招聘し最先端の研究を推し進めるリサーチユニバーシティであることについては,あまり多くは語られていません。スタンフォードにとって,財政基盤の安定化は,あくまで手段であって,本来の目的は,リサーチユニバーシティとして世界をリードしていくことです。
大阪大学に集う教育研究者たちは,リサーチユニバーシティを心の底から目指していることは承知しています。ただそのためには,応用研究,実用化研究に対しても高く評価する余裕,異なる考え方,価値観を認める余裕が必要だと思います。こうした余裕から財政的基盤はおのずと強固なものになっていく,と考えます。小生のラボ長としての取り組みはまだ端緒についたばかりですが,VBLモデルを先端科学イノベーションセンター内に普及させ,もって大学全体の多様性確保に貢献することだと考えております。未熟者ゆえ,至らぬ点も多いとは存じますが,今後ともVBL部門の活動に対して,ご指導ご鞭撻の程,宜しくお願い申し上げます。
ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー長 小林 敏男